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mclean chanceです。


『東京オリンピック』は、1964年第18回オリンピック東京大会を撮影した、市川崑を代表する作品であり、最晩年に監督の意図する通りの作品としてデジタル・リマスターされ、更に再編集を行ったものが、現行版です。


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自らカメラを回す市川崑監督。



当時、オリンピックをテレビや実際に見た方にとっては当時を思い出すために本作は有効でしょうが、そうでない人には、この映像はいささか地味な映像に見えるかもしれません。


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ブルーインパルスによって作られた五輪!


日本が第二次世界大戦に敗れて、わずか、19年後に行われた大会であり、アジア初の開催ですから、現在のド派手なオリンピックを見慣れている方には、どうしたって地味です。


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亀倉雄策の傑作ポスター!



私も初めて見たときは、「オリンピックって、昔は結構地味だったんだなあ。でもそれがアマチュア選手の祭典であるオリンピックらしくて、コッチの方が本来のオリンピックなのかも」という感想を持ちました(オリンピックがド派手になるのは、1984年のロサンジェレス大会からです)。


しかし、この作品を深く見るために格好のテレビドラマがあります。


2019年に放映され、先日完結しました、NHK大河ドラマの『いだてん』です。


明治の終わりから昭和の中頃までを描くという時代設定のみならず、主人公の2人が英雄でもなければ、それほど有名な人物でもないという点も大変異色でしたが、更に変わっているのは、このお話し全体を俯瞰しながらも、ほとんど主人公の1人として登場する、昭和の大名人と言われた、古今亭志ん生なんです。


『いだてん』はかなりの部分は史実に忠実に描いているんですけども、それが志ん生の「東京オリムピック噺」という落語(実際の志ん生は古典しかやりません)という構造なんですね。


しかも、若い頃と戦後大名人となった頃の志ん生を演じるのが、それぞれ、森山未來とビートたけしでして(笑)、しかも、ビートたけしは風貌を全く似せようとせず、頭髪を金髪に染めたビートたけしのまま演じているという破天荒さ。



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志ん生に似せようとしないのが、むしろ、潔いです


この、全く絡みそうもないモノが話が進むにつれてちゃんとつながってくるのが驚くべきところです。


しかも、語り手である志ん生が過去と現在を行き来し、噺になったり、客観的なナレーションになったりを絶妙に切り替えてます。


この手法は、あまり指摘されませんが、みなもと太郎『風雲児たち』の影響があると思います。

幕末を語るために、関ヶ原の戦いから、延々と描き続けるという、気の遠くなるような作品が2019年現在も続いているのですが、原作者みなもと太郎が時空を超えてちょくちょく登場してきます。


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幕末編だけで現在32巻(笑)。生麦事件を中心に描かれています。



ただし、『いだてん』のように登場人物としてお話に直接絡みませんが、コレに発想を得たのではないでしょうか。


それはさて置き、この『いだてん』も1964年の東京大会がいかにして成し遂げられたのか?から始まり、日本が初めてオリンピックに参加した、1912年のストックホルム大会にマラソンで参加した、金栗四三から語るという、ものすごい射的で近現代史を見ようという野心的な作品です。


内容から、2020年の東京大会のプロパガンダか?という邪推もありましたが、到底そんなモノになり得るものではなく、明らかに現在の自民党の利益誘導政治(それはそのまま2020年の東京大会批判にもなっています)、原爆についての日本政府への批判すら出てきます。



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佐藤〜田中〜竹下派支配の基礎を作った一人、川島正次郎。



そもそも、政治とオリンピックの接近を招いてしまったのが、主人公である、田畑政次自身である事も描かれています。


高橋是清や犬養毅などの有名な政治家も出てくるのですが、登場人物の多くは、それほど知られていない人であったり、全く無名の人がメインでして、しかも、登場人物が大河ドラマ史上、桁外れなほど出てきます。


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嘉納治五郎をこれほど大々的にフィーチャリングしたドラマはなかったのでは。



歴史的事実ですから、ネタバレさせても作品を些かも傷つけないと思うので書いてしまいますが、金栗四三は、マラソンの世界記録保持時であり、それを更新すらしてるほどの実力を誇りながら、第一次世界大戦に阻まれたり、当日の気候がアダとなったりとう不運によって、無冠の帝王に終わってしまった不運の選手でした。


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スポーツがなんなのかすら理解されていなかった時代にオリンピックに初参加した、金栗四三。


田畑政次は、子供の頃病弱であったため、水泳を断念し、東京帝国大学の法学部を卒業し、朝日新聞の政治部の記者をしながら、日本水泳連盟を立ち上げ、戦前の日本の水泳の全盛期を作った人です。


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「カッパのまーちゃん」こと、田畑政次。オリンピック開催前にJOC理事長を辞任せざるを得ませんでした。



普通、オリンピックを描くのなら、金メダルを取ったような人を主人公に据えて、この人の人生から見たオリンピックみたいな描き方とすると思うのですが、そうではなく、2人とも挫折者なんですね。


最終回は、東京オリンピックなのですけども、2人とも言ってしまえば、ただの観客です。


さて、ココでようやく市川崑に繋がるんですが(笑)、『いだてん』にも三谷幸喜演じる市川崑が、出てきまして、『東京オリンピック』の撮影をしてるシーンが出てきますし、作品内で、映画のシーンがそのまま使われています。


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三谷幸喜演じる、市川崑。



あくまでも、この2人が関わった部分しか東京オリンピックが出てこないところがミソでして、つまり、大会全体が見渡せないんです。


それを補完するのが本作であり、『いだてん』を見る事で、当時を体験していない人の感銘度が何十倍にも膨らんでくるわけです。


キレ味満点の映像を作らせたら、当時最高であった市川崑が、日本映画史上最高の撮影監督であろう、宮川一夫と組んで撮られた映像は、もう見事という他なく、レニ・リーフェンシュタール『民族の祭典/美の祭典』と双璧です。



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敢えて別撮りした、チェコスロヴァキアのチャスラフスカ!



市川崑は、有名な試合とかそういうところにそんなに力点を置かず(とはいえ、ヘーシンクやアベベ、日本vsソ連の女子バレーボール決勝とかは、さすがに出てきます)、観客の顔や、棄権した選手、あまり注目されない競技とかを結構写していて、この辺が、JOCから疑問を呈せられたのだと思いますが、今となってはそんな問題はどうでも良く、とにかく、『いだてん』を見てから、本作を見てから市川=宮川コンビによる素晴らしい映像をひたすら楽しるというのが、21世紀の作法でありましょう。


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実は裸足で走っていない、アベベ。


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日本とソ連は、当時女子バレーボール最強のチームでした。


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巨人、ヘーシンク!




既に本作をご覧になった方も、是非やってみてください。


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閉会式の見え方が全く変わってしまう事を保証します!






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