クリント・イーストウッド『15時17分、パリ行き』

 

※公開されたばかりの作品ですので、絵は載せません。あしからず。

 

 

2015年8月21日、アムステルダムからパリに向かう高速鉄道タリス内で実際に起こったテロ未遂事件についての映画化で、ここのところ、イーストウッドは実話モノが続きますが、今回の最大の特徴は、列車内でテロリストを食い止め、撃たれた人を応急処置した人たちを張本人が演じているというのがすごいところです。

つまり、当人たちによって再現されてる映画。という、ものすごい映画でして、本作を映画化するに当たってイーストウッドが主要の3人に取材しているうちに、「じゃあ、君たちが演じてくれよ」という事になってしまい、イーストウッド作品史上初めて、主演が完全なシロウト。という映画となりました。

 

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左から、アレック・スカトロス、ウィリアム・サドラー、スペンサー・ストーン。当人が実際に演じております。

 

お話は列車内でのシーンだけでは映画の尺が足りませんから、3人の中学生くらいからの生い立ち、そして、その3人がヨーロッパ旅行を楽しみ、その時にこの事件に遭遇してしまったという、筋立てになってます。

それを100分弱でサッとまとめてしまう、イーストウッドの手腕は相変わらず冴えています。

当然のことながら、コレは実話なので、前半に伏線はほとんどありません。

スペンサー・ストーン、アンソニー・サドラー、アレック・スカトロスの3人は幼馴染みで、どこにでもいそうなごくごく普通のアメリカ人です。

スペンサーとアレックスがたまたま軍人で柔術を心得ていた事と、武器の扱い方、負傷者の応急処置ができていたというのが、無差別殺人を食い止める事ができた最大の要因ですね。

当然、見所はそのテロを阻止するシーンではあるんですが(ジェイソン・ボーン・シリーズみたいなすごいものではなくて、モタモタ、オタオタしているのをそのまんま撮ってるのがものすごくリアルです)、それ以上によかったのが、3人のヨーロッパでのバカンスの再現が面白かったです。

ヴェネツィア、ベルリン、アムステルダムと観光しているんですが、この一切その後の大事件に巻き込まれていく予兆ゼロのマッタリ感を、当人がやってるというのが、実にいいんですね。

あんまり作り込まず、現場にはそれほど多くのスタッフがいない感じでササッと撮っているのですが、適当だったり、安っぽくならないのが上手いですねえ。

スペンサーとウィリアムがヴェネツィアでLAの女の子と偶然知り合って3人デートしちゃうところとかもよかったですし、御歳87のイーストウッドが、アムステルダムの爆音のクラブのシーンを撮ってるとかも楽しいです。

最後は、ちゃんとフランス大統領オランドが出てきて(実際の映像と撮影を巧みに合成しています)、3人と偶然居合わせた1人にレジオン・ドヌール勲章を受章する場面で本作は終わるのですが、イーストウッドは、英雄譚を描きたかったのではなく、このような名もなき人々の中にこそ、素晴らしいモノがあるという事を厳かに言いたかったのであり、それは、前作の飛行機事故を見事にハドソン川に軟着陸させたパイロットのお話以上に、より強く言いたかった事なのかもしれません。

イーストウッドおじいちゃんからの、「アメリカはまだまだこんなものではない」という宣言のような、しかも相当な実験作でもあったという小傑作でありました。

 

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実際にレジオン・ドヌール勲章を授与された後の写真です。