村井康司『あなたの聴き方を変えるジャズ史』、

後藤雅洋、村井康司、柳楽光隆『100年のジャズを聴く』(ともにシンコーミュージック)







2017年はジャズに関する本が充実していましたが、その中でもシンコーミュージックからでたこの2冊は、お互いを補完し合う内容である事もありながら、ジャズ評論というものを更に一段進めたという点に於いて、近年稀に見る著作であると思います。


説明上、村井康司氏の著書から内容を説明しますと、コレはもはや「ジャズ史」というものを超えた、「近代環大西洋音楽史」ともいうべき巨大な視点が想定された元で書かれており(コレは、油井正一や中村とうようなどの先駆的な仕事を踏まえています)、そのなかの、ジャズに特に焦点を当てて書かれたもので、従来のような、チャーリー・パーカーやマイルス・ディヴィスのような、いわゆるジャズの巨人たちの列伝のような形を取っていません。


よって、第二次大戦後のモダンジャス史の記述は淡白です(無内容という事ではありません)。


最も力点を置いているのは、20世紀にアメリカに「ジャズ」とその後呼ばれる事になる音楽がなぜ生まれたのか?を、中南米やアフリカの音楽、そして、 19世紀のアメリカの音楽(黒人音楽のみではありません)を眺める中で明らかにしていく記述です。


ココを丁寧に行う事で、その後出現するジャズの巨人たちが残した業績への見通しがよくなり、しかもその周辺にある様々なジャンルの音楽への目配りという、タテだけではなく、「ヨコの視点」からもジャズという、この不可思議な音楽を理解する事が出来るようにできています。


そして、その理解は、2010年代の、現在進行形のジャズにまで達している点もまた大変卓越しております。


この村井氏の大変な労作を理解した上で、後藤、村井、柳楽三氏による鼎談を中心にまとめられた『100年のジャズを聴く』は大変有益です。


後藤氏は、四谷で1967年よりジャズ喫茶「いーぐる」を経営しつつ、この経験に基づいたジャズに関する著作をこれまで数多く出してきた論客であり、このお店の常連が村井氏です。



後藤雅洋氏の初めての著作。ビバップの重要性を説く。


村井氏は、大手出版社に勤務しながらも、ジャズの評論を雑誌等に寄稿し、また、『ジャズの明日へ』などの優れた著作を出されている論客です。



村井康司氏の非常に優れた論考です。


コレに対し、柳楽氏はレコード店の店員という、いわゆる「ジャズ喫茶文化」とは違う観点からジャズを聴いてきた方で、氏が中心となって発行された『Jazz The New Chapter』は現在 4冊まで出されています。



私もすべて飲み込めたとは言い難いですが、非常に示唆に富むムック本です。



ココで提示されている近年のジャズへの動きへの独自の視点の提示とジャズ史の読み直しが大変評価されているわけですが、この鼎談はココへの、後藤氏と柳楽氏の「歴史」と「感性」の齟齬が中心となって進んでいきます。


村井氏は、どちらかと言うと、後藤氏のジャズの考え方に近いと思いますが、この両者の齟齬を理解し、「コレはこういう事を言いたいのではないですか?」という、言わば「翻訳」の立場を取っています。


ココで展開される議論は始めからかなり飛ばしていて、「チャーリー・パーカー、マイルス・ディヴィス、ビル・エヴァンスの音楽はいい今でも素晴らしいけども、もう消費され尽くしてしまっている」とか、「モンクは未だに汲み取るべきものがある」というところから始まっているので、一般的なジャズファンはかなり抵抗があるに違いありません。



ジャズ史でもそのユニークさが際立つ、セロニアス・モンク。2017年に生誕100年でした。


しかし、それは現在進行形のジャズの動きを考えると、当然の帰結である事が次第にわかってくるんですね。


私もこの一見過激な論に異論はありません。


そんな中で、ポール・ブレイ、ジム・ホール、ウォーン・マーシュ、ジミー・ジュフリー、ポール・モーシャンと言った、コレまでジャズの歴史では地味な存在だった人々の再評価を行い、コレを現在のジャズと結びつけていくところが、本論のキモであり、この辺は90 年代以降のジャズの動きがわかっていない方には、正直わかりにくい部分でしょうけども、この本に紹介されているアルバムだけでも聴いていると、三氏の言わんとする所はわかってくると思います。


そして、この新たに見出されたジャズ史と同時に、現在との断絶もコレによって明確になっていく過程が本著の白眉であり、現在のジャズの活況は、一見停滞していたと思われる、1990-2000年代の過渡期があればこそなのだ。という事で本論を結んでいます。


現在のジャズをココで語る事はやめますが、共通している繊細で緻密に構築された感性がどこから来るものなのか?は、このコレを読むとかなり納得がいきます。


という事で、この著作は初心者には余りオススメはできませんが、少なくとも、モダンジャズを満遍なく現在まで聴いてきたという人には、大変有意義であると思います。


順番としては村井氏のジャズ史を読んでから、鼎談本を読んだ方がよいでしょう。


今後、この2冊を読まずにジャズを議論する事は大変に危うい。と思わせる濃厚な内容でありました。




ロバート・グラスパーが提示した考え方は、予想をはるかに超える影響を今日のジャズに与えました。


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