セオドア・メルフィ『Hidden Figures』



 

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隠された存在」である、メアリー・ジャクソン、キャサリン・ジョンソン、ドロシー・ヴォーン(左から)

 

ジョン・グレンによる、アメリカ初の有人宇宙飛行は、『ライトスタッフ』によって映画化されていますが、その背後には、アフリカ系アメリカ人の女性の活躍があったことは、ほとんど知られていません。

本作は、いわば、『ライトスタッフ』の裏話として、位置付けられる作品でして、アメリカでは、2016年(ジョン・グレンが亡くなった年です)に公開されたのですが、日本ではなかなか公開が決まらなかったようで、ようやく、『ドリーム』という、なんともボンヤリとした邦題がついて公開となりました。

コンピュータ。というのは、実は、物理学や数学の難しい数式の検算をする人々を指す言葉でして(残念ながら、本作ではそれがうまく字幕では表現されてません)、それはコンピュータが開発されるまで、つまり、20世紀の中頃までは、存在した人々です。

本作は、NASAでこの「コンピュータ」を行なっていた、アフリカ系アメリカ人女性の、特に3人、キャサリン・ジョンソン、ドロシー・ヴォーン、メアリー・ジャクソンのお話に絞って描かれているお話であり、コンピュータが人間からIBM製の機械に変わっていくその瞬間を描いたお話でもあります。

キャサリンは、子供の頃から天才的な数学の才能があり、アフリカ系アメリカ人でありながら、奨学金を得て、大学院まで進んで学位を取っており(コレは、黒人初だそうです)、その才能が見込まれて、NASAに採用されますが、薄給で「Colored」と書かれたオフィスで働かざるを得ませんでした。

それは他のアフリカ系アメリカ人も同様でドロシーとメアリーも同じような待遇でした。

NASAのラングレー研究所のある、ヴァージニア州ハンプトンは、コテコテの南部であり、つまり、人種隔離政策が露骨におこなられている州でありまして、トイレから何から何まで、「カラード専用」が区別されていて、キャサリンがその事で苦労するシーンは、人種差別がたったの50年前まで、平然とアメリカで日常化していた事がわかります。

 

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黒塗りされまくったデータから情報を読み解こうとするキャサリン。

 

ドロシーは、管理職としての能力がありながら、いつまでも昇進できず(黒人だからです)、メアリーも大学まで出ているのに、技術職として出世できませんでした。

 

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コンピュータ言語のFotranを独学してIBMの最新鋭コンピュータを動かそうとするドロシー。


 

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黒人女性初のNASAの技術職となるメアリー。

 

キャサリンは、その才能が買われて、有人宇宙飛行のために、安全に海に着水するための軌道計算を行うのですが、職場は白人しかいません。

 

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 キルステーン・ダンストが人種差別者の象徴を演じます(架空のキャラです)。


上司には、全てのデータを開示されず(どこかの国の役所では、21世紀になっても行なっていますが)、やはり、形式的な検算をやらされます。

しかも、そのオフィスには、カラード用のトイレはありません(連邦政府の機関なのに、露骨な差別が存在したというのは、唖然としますね。。)。

この辺の描写は事実とは異なり、1950年代には、もうこのような人種隔離政策としか言いようのない施設は全て撤廃されているのですが、それでも、それらは実在したんですね。。

本作は、かなり史実を脚色して描いてはいるんですが(ケヴィン・コスナー演じるアル・ハリソンは、実際はキャサリンの上司ではありません)、1960年代まで、アフリカ系アメリカ人が合法的に差別的な政策がとられていた事実は変わりません。

 

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キャサリンの才能を見抜くハリソン。ケネディ時代のありとあらゆる人を演じる人になりつつある、ケヴィン・コスナー。

 



ジョン・グレン。今回は脇役です。

 

 

それにしても、驚くのは、ジョン・グレンの乗るフレンドシップ7が最後に着水するための計算は、IBMのコンピュータで行わず、キャサリンが行なっていたという事実ですね。

つまり、マーキュリー計画の最後の最後は、人間の計算によって成功したんです。

この驚異的な事実を、敢えて事実を改変して、登場人物を絞り、3人の女性が男性優位社会、黒人差別の世界で如何にのし上がっていくのか?という、良質なブラックムーヴィに仕上げた監督の手腕は素晴らしいですし、『ライトスタッフ』と合わせて見たいです。

 

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ラックムーヴィ好きにはたまらん映像もちゃんとございます!

 

 

 

 

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