私は、新作の日本映画を見なくなってもう30年にはなりますね。


その原因はハッキリしていて、『クライシス2050』、『天と地と』、『ガンヘッド』の「トラウマ三部作」というものが、私にはあるんですね。


細野晴臣がJBの前座をやった時に観客から非難轟々を受けてしまい、以後、ヒップホップには一切手を出さなくなったし、言及しなくなったくらい(ラジオ番組daisy holiday で「JBには済まない事をした」と細野氏ご本人が言ってたくらいしか私は知りません)、私には、この3作が心底、日本映画というものへの信頼を打ち砕かれたんですね。


ただ、ご理解いただきたいのは、私は、日本映画すべてがキライなんではないのです。


黒澤明『七人の侍』が、久々にリバイバル上映されたのを函館の映画館で見た時は、余りの凄さに呆然としたくらいです。


「世界のクロサワ」って、全然大げさな形容ではなかったことが、この作品を見てホントにわかったんです。


で、黒澤明の『どですかでん』以前の東宝作品が全てVHSでレンタルが始まって、もう、夢中になって見ましたよ。


黒澤明の映画がデカくてぶっとくて、めちゃくちゃわかりやすい。


伝説のキャメラマン、宮川一夫と組んだ『用心棒』の画面構成は、心底しびれました。


アンマリ、お芸術になった黒澤作品は好きではないですけども、『生きる』や『赤ひげ』はやっぱり見事でしたね。


と行った具合に、1970年代くらいまでの日本映画は溝口健二や小津安二郎と言った巨匠から、鈴木則文や三隅研次と言った、新宿で一緒に酒を飲んでも楽しそうな人たちの愛すべきプログラム・ピクチャーまでよく見ました。


しかし、1980年代以降の映画は、とにかく見たくなかったんです。


その一発目は、畑正憲が作った『子猫物語』ですか(笑)。



協力市川崑(笑)。ヤベエ。。


日本映画の興行収入のトップ2は、長らく、犬と子猫だったんですから(笑)!!



こんな先進国はどこにもない(笑)。


そして、連発される角川映画ですね。


和田誠『麻雀放浪記』は例外的な傑作ですが、私が中学の時日本映画見た、角川春樹が自らメガホンを取った『天と地と』(海音寺潮五郎原作)のヒドさ(笑)!!


余りのスカスカな内容に、「カネ返せ!」と思いました。


あらすじはネットで見ればわかる通り、武田信玄と上杉謙信の川中島の戦いを描いた映画なんですけども、言ってしまえば、ものすごくお金をかけたキレイなプロモーション映像と言いますか。


映画じゃないんですよね、コレ(笑)。




この合戦シーンにカネがかかりすぎて、あとは適当という仰天の映画でした。



さてさて、次に出ましたる『ガンヘッド』(笑)。


なんと、今をときめく、原田眞人監督、主演は、高嶋スターレス兄ですよ。


もう、とにかく、戦隊モノ級のちゃちいセットとSFXとどうしようもない脚本と演技にギャフンものの映画でした。


『エイリアン2』の出来損ないみたいなものでしょう。


コレも角川映画です(笑)。


そういえば、全体的に画面が暗くて、登場人物が汗だくなのは、なんとなく、『日本のいちばん長い日』に似てなくもないです(というか、この2作が同じ監督である事に気付いたのは、見てから結構経ってからです。かなりショッキングでした)。




このデザインのダサさが最高。原田眞人は黒歴史にしたいでしょうね。



さあ、トリを飾りますのは、日本映画に燦然と輝く、「和製天国の門」とも言える、『クライシス2050』です。


ホントにクライシスになったのは、制作に関わった学習研究社だった。というのは、笑えない実話ですけども、たしか、制作費が70億円くらいかかっていたんですよ。


私の記憶がたしかなら、リドリー・スコット『ブラック・レイン』(松田優作の遺作です)が当時の日本円で60億円くらいだったはずです(近所のレンタルビデオ店の広告にそんな事が書いてました)。


それをはるかに超えるカネをブッ込んだ、SF大作なんですよね。


余りにつまらない映画なので、もう子細は忘れましたが、なんとなーく、トニー・スコットっぽいシズル感が出まくった画面とそれに反比例するような凡庸さが痛いほど伝わってくる作品です。


監督は、『バニシング・ポイント』という大名作を撮った、リチャード・サラフィアンの息子、デラン・サラフィアンですが、彼はその後、どうなってしまったんでしょうか。



かなり、『ムー』が入っててヤバいポスターが今となっては香ばしい。

チャールトン・へストンが出演しているのも腰が抜ける。


はい。という事でして(笑)、私が1950代に思春期で、木下恵介や黒澤明新作として映画館で見ていたら、多分、ハリウッド映画と同じくらい、日本映画も映画館で新作を見ていたでしょう。


私の思春期の頃の日本映画界は、経済はバブルでカネが唸るほどあったのですが、そういうものから取り残されて、人材が極端にいなくなっていましたから、突然、映画制作にど素人が唸る札束で頬を引っ叩いて、好き放題やっていたんでしょう。


そのチャンピオンが角川映画だったのではないでしょうか。


角川春樹は商売が実にうまかったので、どうしようもない映画を連発しても、興行収入はソコソコ毎回取れていたし、これに連動させて、小説やらマンガやら何やらをうまいこと売ってたんで、トータルとしては成功していたんでしょう。


学研は、これを自分たちもやってみよう!とNHKと組みまして、「生真面目で豪勢な凡庸」を作ってしまい、しくじり先生となりました。


こんなトンデモを思春期に体験してしまった私が、果たして、新作の日本映画を見る日は来るのでしょうか。


と、ヴィクトル・エリセの映画のようなずーっと引きずり続けるトラウマを開陳した次第でございます(笑)。


ハイ、もうお時間きましたね。サイナラ、サイナラ、サイナラ。




私が日本映画の新作を見る日は来るのかしら。