サム・ペキンパー『Cross of Iron』
とにかく、ペキンパーを侮辱していると思えない邦題はやめてくれ!
邦題、ひどすぎ(笑)!スプラッター映画じゃないよ!
さて、西ドイツ、イギリスの資本で製作された本作は、ソ連とナチスドイツの凄絶な戦いを描いた大作ですが、主人公はジェイムズ・コバーン演じるロルフ・シュタイナー伍長(曹長に昇進します)という、とても優秀だが、とても扱いにくい(しかし、部下にとってはとても頼もしい)軍人です。
コバーンにとっても最高の役でしょう。
まさに、ペキンパーの分身です。
彼の小隊は、さしずめ、岡本喜八の名作『独立愚連隊』に出てくる小隊まんまであり、悪童たちの集まりですが、とても人間臭い集まりでして、これまたペキンパーの大好きな「荒くれども世界」ですね。
シュタイナーの「独立愚連隊」。
彼らはヒトラーもナチスへの忠誠心もなく、己の意思を貫く集団です。
ご存知の通り、スターリングラードの戦いで大敗北したドイツ軍はソ連領内から追いやられていきます。
シュタイナーたちは、とても厳しい撤退戦を強いられている立場です。
アメリカの戦争映画で、こういう敗北する側を描くのは、当時はかなり異色ですし、現在でもアメリカはヴェトナム戦争映画を結構撮りながらも、敗退していく姿を具体的な映像にはしていません(厭戦感や狂気は多く描いてますが)。
その意味でも、本作がアメリカ映画の文脈では相当変わっている、しかも、ドイツ軍の事を敵役ではなく描くという意味でも、相当な異端といってよい。
異端児ペキンパーの面目躍如と言ったところでしょうね。
そのシュタイナーの部隊に、シュトランスキー大尉側を赴任してきました。
シュトランスキー。無能な軍人です。
大変イヤミで権威主義的な男で、まさに、シュタイナーと好対照なキャラクターです。
この対立がこのお話を推進していく基本エンジンです。
シュタイナーたちの部隊は、ソ連軍からの奇襲を受けてしまいます。
彼も奮戦しますが、負傷してそのまま病院に運ばれるのですが、どうも頭を強く打ったらようで、目が覚めても、幻覚が見えているようなんですね。
シュタイナーの見ている幻覚を、短いショットを積み重ねて表現するシーンは、大変見事で必見です。
シュタイナーの入院シーンは単なるバイオレンス監督ではない事を証明してます。
こういう優しい映像も撮れる人なのです!
この映画の原題でもある、「鉄十字」というのは、ドイツ帝国時代からの伝統の勲章で、シュタイナーはその勇敢な戦いぶり(というよりよりも、仕事ぶり。という言葉がピッタリなほど、冷静沈着です)によって、ナチスドイツからこの鉄十字勲章が与えられているんです。
つまり、この主人公の軍人としての誇りの結晶です。
これが鉄十字勲章。
プロイセン貴族の血を継いでいるシュトランスキーはこの鉄十字勲章が欲しくて(実は彼もナチスには全く興味がありません)、ワザワザ激戦である東部戦線を志願したんですね。
ですので、「はらわた」とは何の関係もないです!
シュタイナーは自宅に戻ってもよかったのですが、彼は自分の意思で東部戦線に戻っていくのですが。。というところで、あらすじはストップでございます。
ペキンパーお得意のスローモーションと短いショットのモンタージュを多用したバイオレンス(ココではソ連軍の容赦ない攻撃ですが)は相変わらずの切れ味ですが、私がそれ以上に驚いたのは、軍隊を描いているからというのもありますが、組織の中の腐敗などをうまく描いている点ですね。
戦争シーンの情け容赦なさはさすがです。
荒くれ者やならず者を主人公にした映画を撮っている監督ですので、むしろ、「男たちの友情」とかそういうものを描く事が中心だったペキンパーがそれは相変わらず中心に据えながらも、そこに官僚組織の不正が絡んでくる事で、ペキンパーの世界に奥行きが出てきているんですね。
シュタイナーに理解を示す上官たち。
ペキンパーの世界は、実はとても小さい世界を描いています。
その中の「コップの中の抗争」ともいうべきものを、トコトン描く事に長けている監督ですね。
本作もある勇敢な小隊長のお話という意味では小さいですけども、その背景には、ソ連軍との戦いという大きなお話があり、ドイツ軍という巨大な組織の中での出来事になっているんです。
そこにこのお話し後半の、まさにペキンパー的な凄絶さと悲愴美を嫌が応にも高めていきます。
あと、一応、ドイツ軍の視点で描いてはいますが、ペキンパーはドイツには、特に興味はないと思います(笑)。
そういう描写がかなり希薄ですが、それは本作のキズにはなっていません。
あと、女性への描写がかなりひどい監督ですが(笑)、それに対する彼なりの反論が描かれている点も注目ですね。
サミュエル・フラー『最前線物語』と双璧をなす、第二次世界対戦のヨーロッパの戦いを描いた傑作。