Liberation Music        Orchestra 
『Time/Life』(Impulse!)

Personnel;
Michael Rodriguez and Seneca Black(tp),
Curtis Fowlkes(tb),
Vincent Chansey(french horn),
Joseph Daley(tuba),
Loren Stillman(as),
Tony Malaby and Chris Cheek(ts),
Steve Cardenas(g),
Carla Blay(p, arr, cond),
Charlie Haden or Steve Swallow(b),
Matt Wilson(drms)

Recorded on August 15, 2012 at Jazz Middlesheim Festival in Antwerp, Belgium  
and on January 14 and 15, 2015 at Avatar Studios, NY



「リバレーション・ミュージック・オーケストラ」は、チャーリー・ヘイデンとカーラ・ブレイの双頭リーダーによって断続的に活動されてきたビックバンドですが、2014年のヘイデンの死によって、その活動は休止したかと思いましたけども、2016年になって、新作が出ました。

ヘイデンは、1曲目と5曲目のみ参加でして、2011年のベルギーのアントワープでのライヴ演奏です。

ベルギー。というと、パリで無差別テロ事件を起こした連中の拠点がブリュッセルであった事を考えるに、本作はテロの犠牲者への鎮魂の意味があるのでしょうが、なんと言っても、このバンドの屋台骨であるヘイデンへの追悼の意味が大きいと思います。

全編に漂う静かな悲しみがその事を物語っております。

このヘイデンの入ったライヴの真ん中な挟まれる形で、エレクトリック・ベイスのスティーヴ・スワロウが加わったスタジオ録音が3曲あるのですが、スワロウは「ヘイデンの代役」をこなすのではなく、あくまでもいつもの彼のプレイに徹しておりまして、その事が一層、チャーリー・ヘイデンという、不世出のベイシストの代わりが務まる者などある筈がなく、この事を一層印象づけます。

さて、かつてはデューイ・レッドマン、ドン・チェリー、ガート・バルビエリ、ポール・モーシャンと言った、個性の塊のような連中が在籍していたこのバンドも、随分とメンバーが変わってしまってして、CDの中にある集合写真を見ると、カーラとスティーヴの夫婦がホントにおじいちゃん、おばあちゃんなのに驚きますね。

トランペット2、トロンボーン1、フレンチホルン1、チューバ1、アルトサックス1、テナー2のホーンセクションにギター、ピアノ、ベイス、ドラムスのリズムセクションという、ビックバンドとしてはやや小ぶりで変則的な編成が、ギル・エヴァンスを思い起こさせますが、実際、ギルを彷彿とさせる浮遊感のあるアンサンブルが見事です。

現在のオーケストラのメンバーは、恐らく、現役で望み得る、アメリカの最高峰とも言うべきジャズメンが集まっていて、かつてのような水滸伝を豪傑の集まりみたいな感じというよりも、超エリート集団と言った趣きがありますけども、出てくる音はものすごく力強いですね。

メンバー全員がソロでも活動できるほどの人たちが、完全にカーラ・ブレイの作り出すサウンドを作り出す事に奉仕しているのは、ヘイデンとカーラの人徳の為せる業でしょう。

驚くのは、やはり、ヘイデンのベイスの圧倒的な存在感で、前回のフレディ・グリーンとは違い、その太く力強い一音一音で、バンドに強力なエネルギーを供給し、演奏の方向性を決めているのが、ハッキリとわかることです。

これに対して、スタジオ録音でのスワロウの繊細なエレクトリック・ベイスは、きめ細かく作り上げられた悲しくも美しいアンサンブルと溶け合うようになっていて、ビックバンド全体が浮遊しているかのような印象を与えますね。

これは、カーラ・ブレイが意図する所を受けての演奏なのだと思います。

つまり、このアルバムは、ヘイデンの強力なリーダーシップに基づく演奏とカーラの精緻なアンサンブルを中心とした演奏が2つある事を示し、両者の資質の違いを示すとともに、ヘイデンという不世出のベイシストの代わりなどありはしない事を演奏によって証明しているのだと思います。

本作が出て、フィデル・カストロが90歳で天寿を全うしたのも、何とも不思議な縁を感じます。